送月現語 2019年1月28日

 かつて永田町の政治家たちが最も恐れるものがあった。中央官庁のあるビルの8階が動いている、という噂が流れると、ある人は期待に明るい顔をし、またある人はたちまち青ざめて舌の動きが鈍くなったという。中央合同庁舎6号館A棟8階、そこには最強と言われた捜査機関がかつて存在した

 ▼東京地検特捜部の正式名称は東京地方検察庁特別捜査部と呼ぶ。政官界の汚職や脱税、それに大企業の経済事犯などを手掛ける。我が国の経済を立て直した政治家だろうと、政府の重鎮であろうとお構いなし。一度捜査のメスが入れば有罪の2文字は避けられない、これは今でも言われている

 ▼列島改造論を掲げ、国民の支持を得た田中元首相も、辞任後に発覚したロッキードで躓いた。岩盤に守られていたはずの総理府(当時)も、検察の”ドリル”で穴を開けられた。リクルートコスモス社による政界工作も、ある議員の告発がきっかけで、NTTや労働省などから大量の逮捕者が出た。90年代にはキング・メーカーと称された金丸信元自民党総裁が逮捕され、さらにそこから芋づる式にゼネコン汚職の大量摘発に至った。かつての特捜部は本当に政治家が恐れる存在だった

 ▼ところが近年、東京だけに限らず、地検特捜部の不敗神話は腐敗神話に名を変えてきた。2014年に明るみに出た小渕優子元経済産業相の政治資金規正法違反事件は、本丸の小渕議員に捜査のメスは及ばず、会計責任者ら2人が在宅のまま起訴され、結局執行猶予判決に終わった。この時小渕氏の事務所の”何か”が入ったパソコンの記録装置は、何者かによってドリルで破壊されていたという。大阪では先の森友学園事件に絡み、財務省の決裁文書改ざん事件が発覚し、大量の物的証拠などが残っていたにも関わらず、とうとう特捜は動かなかった。関係者も全員不起訴。なお、この事件を担当した検事は後に栄転したという

 ▼過去にさかのぼると、検察神話も絶対のものではなかったことがわかる。79年に発覚した国際電電(KDD)乱脈経理事件では、1億円以上のカネが政界に流れていたにも関わらず、捜査は政界ルートに触れぬまま終わった。あのリクルート事件の時も、裁かれたのは元官房長官や公明党の元代議士と、それに政治家の公設秘書並びに灰色高官だけで、未公開株を受け取った竹下元首相や小渕元官房長官などに捜査のメスが及ぶことはなかった

 ▼検察の腐敗神話は今に始まったことではない。ただ、最近はあまりにもひどい。あっせん利得で告発された甘利明元経済再生担当相は、大量の証拠や証言が残っていたにも関わらず、政界側だけは捜査されず不起訴になった。国税局への口利き疑惑が取り沙汰された片山さつき地方再生担当相も、捜査のメスが入る兆しはない。こんな有様ではそのうち、金丸事件の時のように検察庁の看板に黄色いペンキが投げつけられるのではないかと心配してしまう。

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