送月現語 2019年1月30日

 我が国の報道機関はかつて弱腰だ、腰抜けだ、なぜもっと強硬的な手段を取らぬのかと政治を煽り立て、事が終わった後は何食わぬ顔で、我々は騙されていた。皆さん反省しましょう。政府が悪いのです。軍部が悪いのですと自らの責任を棚上げした歴史を持っている

 ▼もちろん、報道機関だけを責めるわけではない。「白虹日を貫けり」、という一文を載せただけで、大阪朝日新聞が筆を折られた白虹事件、新聞紙法による記事差し止め命令、軍部や政府などによる批判記事の検閲など、厳しい言論統制があったことは事実だ。正面から軍や政府を批判するような記事を書けば、それを書いた記者は特高警察の監視下に置かれただろうし、また度重なれば発売禁止、発行禁止処分を受けることになる、それはすなわち、新聞社にとって死を意味することだった

 ▼敗戦直後、東京・千代田区のあちこちで黒い煙がもくもくと空にのぼっていた。戦犯に問われることを恐れた官庁や軍部が、公文書を焼き消す煙だった。その中には同盟通信、今の共同通信社も含まれていた。我が国の報道機関は検閲されたいい加減な記事を紙面に載せ、また戦前、軍部を礼賛したり、対外強硬論を唱えた責任を取ったと言えるのだろうか。その時代を正面切って反省せず、ただ戦争はいけないことです。戦争はやめましょう。軍はいけませんと訴えるのは、愚かと言えまいか

 ▼一連の報道姿勢は戦後「大本営発表」と名付けられた。日本軍の統帥機関が大本営と呼称され、その発表を垂れ流すさまをそのまま名付けたもの。現代でも、当事者の言い分をそのまま一方的に書く新聞などに対して皮肉を込めて使われることがある。では、大本営発表のころから、我が国の報道機関は数歩でも、僅かでも進歩したと言えるのだろうか

 ▼誰々容疑者を明日逮捕します。容疑者が逮捕されました。容疑者は何市何町何番地に住んでいて、職業はこうで、認否はこうです、という警察筋の情報をそのまま紙面に載せ、独自取材をしない社会部。政治家の顔色を伺い、不祥事や不始末の責任を追及せず、朝刊に掲載する最低限の情報を入手するためだけに配慮した質問をする政治部。あるいは、改ざんを「書き換え」と「言い換え」、「不正」を「不適切」と「書き換え」、言葉を弄ぶ今の新聞やテレビが、大本営の時代から少しでも進歩したと、どの面下げて言えるのか。こんな報道が近年ではまかり通っているお陰で、政治家に頭が上がらない政治部、警察筋に出入り禁止を告げられることを恐れ、警察の姿勢を否定しない社会部が出来上がっているではないか

 ▼戦後70年以上が経過し。また蘇った大本営発表によって、この国の行方に暗雲が漂っている。先日、NHKの上田会長が報道各社のインタビュー取材に応じ、政権との距離を問われたのに対し、「控えさせて…」と言い放ったのは、やはり後ろめたさがあったのだろうか。NHKや新聞は、今日も明日も、誰も実感していない景気回復や、政権にすり寄る御用記事を書き連ねる。政権側の発表と、政治家の意向に沿って。

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